かぼちゃの馬車事件とLGBTビジネス-騙される人の共通点

 

どうも、英司です。すっかり秋らしくなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

今回は、まだ記憶に新しいシェアハウス「かぼちゃの馬車」を運営するスマートデイズが破綻したことにより、700人以上ものオーナーがサブリース契約を反故にされ、返済の目処が立たない1億円以上もの借金を抱え路頭に迷ってしまった事件と、昨今のLGBTビジネスに手を出して失敗する企業や人の共通点について、感じたことを書いてみたいと思います。

 

ちゃんと自分で確かめている?

 

「かぼちゃの馬車」の件に関しては、確かにスルガ銀行もスマートデイズもグルになってオーナーの収入や預金残高を粉飾した1点については違法行為ですし、しっかり罰は受けるべきかとは思います。

 

ただし、どうにもこの事件に関してはたくさんの違和感が残ります。株も土地転がしもなんでもそうですが、投資は本来余剰資金でやるものと考えられていますので、様々な法律や制度も、相手方に余程の瑕疵がない限り保護には消極的なのが原則で、純粋な詐欺による金銭の詐取とは違って強く自己責任が求められる性質のものです。

 

被害者の方々は多少の粉飾があったにせよ、1億円以上のローンを組める人たちですから、大手企業等でそれなりの地位にあるような方々だったと考えられます。

 

恐らく良い学校を出て、良い会社に入り、それ相応の頭のある人がなぜこんなものに騙されてしまったのか、とても不思議でした。しかしいくら考えたところで、この被害者の方々は「自分で確かめる」ことの意味の重さを全く理解していなかったのではないか、という答えに行き着きます。

 

 

算数(≠数学)ができれば分かったかぼちゃの馬車のおかしさ

 

スマートデイズが提供する若い女性向けのシェアハウス「かぼちゃの馬車」は、30年一括借上でローン返済まで家賃を保証という、いわゆるサブリース契約を謳い文句に、次々とオーナーを増やして行きました。

 

しかし実際には思うようにシェアハウスの入居率は上がらず、オーナーに約束していた月額の費用を捻出するために、本来は入居者から取らなければならないはずだったお金を、新しくオーナーになる人のシェアハウスの建設費に上乗せしてなんとかキャッシュを稼ぎ、文字通りの自転車操業に陥っていたと聞きます。

 

つまり、オーナーになる人は建設費を市場価格より2割~3割程度上乗せされた金額を支払わされていたことになります。随分とヒドイ話ですが、ここまでの話を聞いて、本当にいくつもの「?」が浮かびました。

 

かぼちゃの馬車の家賃相場と単身向けアパートの相場

 

本件の「かぼちゃの馬車」は東京23区内を中心に展開しており、各種報道によると家賃相場は管理費込みで6万円~9万円程度(居住スペースは7平米~10平米、トイレ、シャワー、洗濯機は共同)とされていました。

 

一方、23区内の若者に人気な区の単身向けアパート(1K・20平米を想定)の相場は下記の通りとなります。

 

  • 新宿区 8.27万円
  • 目黒区 8.7万円
  • 渋谷区 9.5万円
  • 中野区 7.5万円
  • 世田谷区 7.6万円
  • 杉並区 7.0万円

 

(株式会社CHINTAI調べ 2017年現在)

 

私のような不動産業界に縁のない者でも、今の時代インターネットがあれば上記のデータはすぐに調べることができます。

 

月々の家賃に限って言えば、昨今の18歳人口の減少や若者の地元志向というトレンドも手伝い、実はけっこう安い値段で単身者向けのアパートを借りることができます。大きな駅を擁する中野区(中野駅はターミナル駅)、若者に人気な街がある世田谷区(下北沢・三軒茶屋・二子玉川等)、杉並区(高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪等)でさえ、平均で8万円を下回っています。

 

さらに、HOME’SやCHINTAI、SUUMOなどの賃貸物件情報のサイトを見れば「駅からの距離」「築年数」「ユニットバス」のどれかを我慢できるとするなら、この平均よりも更に安い物件など溢れかえっています。

 

しかもこれらの情報は不動産業界の人でなくても、ごくごく普通の人たちが少しインターネットで検索をすればたくさん出てくる情報です。

 

仮にシェアハウスのアドバンテージを「安さ」とするなら、現在の東京では既にそのアドバンテージは非常に微細なモノになってしまっていた、ということになります。そういった価格において大きなメリットとなりえない物件に、本当に人は集まるのか?と、本来なら一歩立ち止まるべきところでした。

 

まずは足し算、引き算、掛け算、割り算をしてみて

 

かぼちゃの馬車のビジネスモデルが本当に破綻しないかどうかを調べる際、下記のようなものすごく単純な計算式が成立するかどうかを検証する必要があります。

 

家賃月額×部屋数×(1-空室率)×30年(360ヶ月)>ローン総額(利息込)

 

現在、都内のマンションの空室率は約34%にも達するとされています(不動産調査会社タス 2016年調査)。

 

かぼちゃの馬車は1棟あたり10~20部屋と言われていましたのでわかりやすく15部屋、オーナーが購入したシェアハウスはだいたい1億5,000万円~2億円程度の物件が多かったと言われていますので、ここは銀行への利子も含め2億円とし、家賃は7.5万円として、上記の式に当てはめてみたいと思います。

 

家賃7.5万円×部屋数15部屋×(1-空室率0.34)×360ヶ月>2億円

 

こちらを計算すると家賃収入だけで30年間の総額2億6,730万円となります。ローン2億円にスマートデイズの取り分が約7,000万円で、なんとなくビジネスとして成立しそうな気がしますが…

 

築年数が5年、10年、15年と経過すれば建物も劣化してくるのに、新築の時と同じ家賃で貸し出すことなどできるでしょうか?

 

また、経年とともに水道、電気のメンテナンス、ガス機器の買い替えや、建物の修繕・補修が必要となります。

 

さらにシェアハウスとして特筆するところは、敷金・礼金がないためその分の収入がないこと、水道光熱費も家賃に含まれているためその費用もオーナーが負担しなければならないこと、家具家電が備え付けなのである程度年数が経てばそれらを買い替えなければならないこと、アパートやマンションに暮らす人よりは回転が早く、空室になるリスクが高いこと、しかも退室後のクリーニングが必要なことなど…。

 

他にも、シェアハウスそのものに毎年固定資産税もかかります。これらを鑑みたときに、前述の2億6,730万円という金額は非現実的な数字ということになります。

 

普通に考えて、どううまく運営しても2億円にも行かないのでは?と言ったところではないでしょうか。え、じゃあスマートデイズの取り分は?となりますよね。

 

ボランティアでやっているわけでないですから、当然スマートデイズも相応の手数料を取るはずです。そもそも足し算、引き算、割り算、掛け算をしてみても、これは相当無理のあったビジネスモデルとわかります。

 

上京する若い女性が減るのは既定路線

 

「かぼちゃの馬車」は、単身東京に出てくる若い女性をターゲットにしていました。しかしこれもかなり不自然に思います。

 

田舎から東京へ上京するタイミングを仮に18歳と考えたとき、1992年には2,049,471人いた18歳が、25年後にあたる昨年2017年には1,198,290人となっており、およそ40%以上も減っているのです。

 

この18歳人口の減少のペースは来年以降やや鈍化するものの増加することはなく、若者をターゲットとした商売はそもそも市場が縮小する運命にあります。こうした背景から考えると、現在ですら34%もある空室率が、劇的に改善することはありえません。

 

また、「マイルドヤンキー」という造語に代表される地元志向の若者の増加、地方都市と大都市圏のアクセスが向上したこと、そもそも地方都市自体が「プチ東京化」してきており、かつて大都市圏でしか手に入らなかったモノや情報が容易く手に入るようになったことなどを背景に、「上京する若者の減少」というシナリオも、少しでもこうしたトレンドを見聞きしていたら十分に予測できたことです。

 

こうして、不動産関連企業や省庁、自治体等の公共団体が出しているデータを少し覗こうとしただけでこれほどの情報が出てくるわけで、これらを少し複合的に考えれば、ビジネスモデルはもとより、そもそもの市場に対する認識すらかなり甘く、到底成功するモデルとは言い難いものであることは、新卒の社会人ですらわかりそうなものなのですが…。

 

契約書も、倒産すればただの紙切れ

 

このようなメチャクチャなビジネスモデルを提示された時、上記の計算や社会・経済的背景から直感的に判断できる人は「ダメだこの会社」と思って相手にしないと思いますが、オーナーからは口々に「契約書があるから大丈夫だと思った」という言葉が発せられています。

 

これも正直驚いてしまいました。大手企業でずっと手厚く守られている人たちはご存知ではないのかもしれませんが、この世の中「会社が潰れる」なんてことは珍しいことでもなんでありません。

 

そして、「会社が潰れる」ことの定義を知らない人も多いみたいですが、会社が潰れるというのは、本当に端的に表現すると「債務が支払えなくなる」ということです。もっと噛み砕いて言えば、お金を払わないといけない人たちに、払えないことが確定した瞬間が「倒産」の瞬間、ということになります。

 

「お金が払えないことが確定した瞬間」というのは、具体的には従業員の給与やビルの賃料、取引先の請求書等の支払期限に、その分の現金を用意できなかったことで、端的には、銀行からその分の支払いに必要な融資を断られた瞬間、ということになります。

 

無理なビジネスモデルで商売をしている会社がこうなるのは当たり前のことで、こんな状況になったときに「でも契約書に書いてあるからお金払って!」なんて言っても無駄です。大きな会社にいると「倒産」とはなかなか起き得ない一大事のような感覚かもしれませんが、事実、創業から10年後に生き残っている会社は約26%。この中にはもちろん、休眠会社を閉じたとか、個人事業主の方が新しい会社を作り、個人事務所を廃業した等のものも含まれますが、あくまでも統計上は、倒産はけっこう「普通のコト」です。

 

スルガ銀行の営業体制も問題視されはじめましたが、「押しの強い営業マンの言うことをすべて信じてしまった…」と今更言っても、お金が返ってくることはないでしょう。

 

 

失敗はすべて「調べないこと」「考えないこと」から始まる

 

一方、5年~6年ほど前から突如日本で騒がれ始めた「LGBT市場」ですが、詳細な調査対象の母集団形成方法や調査方法、計算方法も開示されない状態でぶち上げられた「日本のLGBT市場は約6兆円」という触れ込みに、この5年~6年でどれだけの人や企業が騙されたかを語りだすと、枚挙にいとまがありません。

 

私の印象では、この数字を独り歩きさせていたのは一部の当事者と、ビジネスチャンスと考え一儲けしてやろうと考えた一部の企業とが勝手に盛り上がっていただけで、大半の当事者は「そんなわけないじゃん(笑)」「あんなデタラメ本気にするような人いるの?」と言った、かなり冷めた反応だったのを覚えています。

 

しかし、ドライな当事者の反応とは裏腹、この「6兆円」の獲得のためにトンチンカンなことをやりだす企業が次々と現れ、当事者の失笑を買うことが相次ぎました。

 

そもそもこの6兆円、0円のところに突如現れた市場であるかのように喧伝されていましたが、実際のところLGBTがブームになるより以前から、私たちはこの国で暮らし、お金を使って生きてきたわけで、その私たちの使ってきたお金を日本社会の総消費額から切り出してみたらその総額が6兆円だった、というだけのことであり、「新しく出来た6兆円という市場」という認識は誤りです。

 

これも結局、短絡的なマーケティング担当者が実態をよく調べもせずに、「LGBTフレンドリー」という枕詞をつければなんでも売れると考えたことが原因ですし、そもそもこの「6兆円」の正体をよく検証もせずに「LGBT専門家」とか「LGBTコンサルタント」を自称する人の言うことを裏付けもなく信じて、自分で確かめる、自分で調べる、自分で考えることを放棄した結果のことだと思います。

 

※LGBTビジネスが不発に終わった理由を分析している記事は過去に私が書いた下記の記事を参照※

 

ゲイが語る「LGBT市場」という幻想。ずっと前からレッドオーシャンだったゲイビジネス(外部サイト)

 

 

しかも、これが投資話よりも厄介なところは、「当事者の声」として紹介・主張されたものが、たとえ「サンプル数が1」のものであっても、「信頼性の高いデータ」として扱われてしまいがち、というところです。

 

本来の企業におけるマーケティング業務で、サンプル数が1とか10とかのデータを根拠に意思決定がされることなどありえません。しかし、これがLGBTの場合、「人権擁護」とか「ダイバーシティ」とかの美辞麗句でキレイにラッピングされていて、そのデータの有意性が検証されづらい、という難点が浮き彫りになってきました(有意性を検証することそのものを「差別」と指摘される可能性があるため)。

 

こうしたビジネスや施策を提案されたにもかかわらずそれを採用しない企業等を「差別だ」と弾劾し、無理矢理に自分たちの提供する研修を受けさせるとか、高額な教材を買わせるとかのビジネスすら発生しかねないところにまで来ていると感じています。実際に、下記のような個人を相手にした高額な「LGBT起業セミナー」が問題視され、新聞に取り上げられた事例まで出てきています。

 

LGBT「強み」起業を 高額セミナーでトラブル(外部サイト)

 

かぼちゃの馬車の件も、LGBTビジネスの件も、大げさな話を吹聴した人が悪いとは思いますが、どちらも騙される側の人にもう少し調べる力、考える力があれば起きずに済んだことだと思います。

 

これらの件を通して、適切な判断に必要なのは勢いや情動ではなく、しっかりした調査力と確かな検証力、それらを複合的に組み合わせて考えられる力だと思いました。