【書評】街場の文体論/内田樹

どうも、英司です。そろそろ冬の足音も聞こえてきた最近ですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。読書の秋、ということもありますので、今回は久々にブックレビューでも書きたいと思います。

 

今回、レビューをしたい本はこちら。

 

『街場の文体論』/内田樹


私も現在、広報PRやWEBマーケティングの仕事をする中で、社内向けではない「外に魅せる文章」を書かなければならない場面が多いので、とても役に立った一冊です。

 

また「文章を書く」という行為自体、仕事をする上で避けられない人が多い作業だと思いますので、きっと多くの人にとって有意義な書籍だと思いましたので、紹介させていただきます。

 

良い文章とは何か?という問い

 

本書は良い文章、わかりやすい文章の書き方について指南するHow to本のような性質の作品ではありません。

 

「センテンスは何文字程度に」「一文は短く」「結論は冒頭に」等の具体的なテクニックに関して論じた本は世の中に無数にありますし、私個人的にこうした指南書のほとんどは読んでも内容をすぐ忘れてしまったり、実践するまでには至らなかったりというような内容のものが多かったと感じています。

 

本書はそういったテクニックではなく「良い文章を書くために必要な教養」が豊富に散りばめられた内容のように感じました。

 

内田樹さんは大学で長きに渡りフランス哲学を教えるために教鞭をとっていた方であるため、本書は「良い文章とは何か?」という問いに対し、日本語の言語学はもちろんのこと、哲学、人類学、近代史と言った多角的観点を総動員して、その問いに答えようとした試みのように思いました。

 

これらの一見無関係な領域に見える論拠が、「良い文章とは何か?」という問いに答えるために次第に有機的な繋がりを見せはじめ、やがて一点に集約されていくダイナミズムを味わえる本で、正直鳥肌が立つ思いで読み進めていました。

 

説明したいものごとへの【焦点距離の調整】

 

本書では、冒頭にて「説明がうまい作家」を挙げた上で、こんなことが語られています。

 

※本書は大学での講義をテキスト化しているため、全編に渡ってしゃべり口調です※

 

説明がうまい人って、友達の中にもいるでしょう。ものごとの本質をおおづかみにとらえて、核心的なところをつかみだして、それを適切な言葉でぴしりと言い当てることができる。どうしてそういうことができるのか。技術的な言い方をすると、焦点距離の調整・・・・・・・が自在だからなんです。はるか遠い視点から、航空写真で見おろすようなしかたで対象を見たかと思うと、いきなり皮膚のでこぼこを拡大鏡で覗くように近づく。

 

私はこの文章の中の、「焦点距離の調整が自在だから」というところにハッとしました。この指摘こそ、「本質をおおづかみにとらえて、核心的なところをつかみだして、それを適切な言葉でぴしりと言い当て」ていると思いました(笑)

 

読んでいてワクワクする作家さんの作品(文学作品、評論問わず)に共通しているのはまさにこの技術です。

 

私自身、自慢ではないですが会社等で「いつも説明が上手ですね」と言われることがあるのですが、「今、自分けっこう調子よく話せている(文章が書けている)」と感じ、文章や文字と自分が一体化していると感じられる瞬間は、思い返してみると確かに無意識的にこの視点でものごとを捉えられている時でした。

 

序盤からものすごく期待感を抱かせる内容でした。

 

この後も、具体的な作家さんやその方の作品の一部を引用しながら、その文章そのものを分析するだけでなく、その文章が書かれた時代背景、作家さん自体が生まれ育った社会について解説しながらも、現代思想や人類学、社会心理学的な観点からの分析も加えられて行く内容が続いて行きます。

 

文章やものごとは、それ自体が単体で存在するものではない

 

本書を通して、「文章やものごとは、それ自体が単体で存在するものではない」という概念を内田樹さんはとても重視しているように思いました。

 

すべての文章や言葉には「宛先」があり、その文章が書かれた時代に当たり前と信じられている価値観や文化があり、ローカル性がある。

 

今後、文章を読むときにこれらの概念を念頭に置いておくことで、これまでの何倍も豊かな解釈ができるようになり、より著者や発言者の意味するところをクリアに捉えられるようになるのではないか、という思いを持ちました。

 

時代を生き延びるためのリテラシー能力

 

日本は国民間に高度なノンバーバル(非言語的)コミュニケーションが介在する社会だと昔から言われて来ました。「阿吽の呼吸」なんて言葉も、そういった文化を表しています。

 

しかし急速なIT化がグローバル化を後押しし、現在の日本はかつてないほどの変化が求められている移行期にあると私は感じています。

 

日本人間でさえ「一億総中流社会」と言われていたのはもう過去の話であり、これまでこの社会を支えていた「中間層」が減少していき、昔よりも種類も総量もさまざまな文化資本を持った人同士でうまくコミュニケーションをしていかなければならない社会に突入してきているように感じます。

 

そんな中で、さまざまな事象や言葉が書かれた(発せられた)文脈、背景を理解できうるほどの「教養力」こそが、この先の社会を生き延びるためのリテラシー能力になるのではないかと、この本を読んで感じました。

 

「これから文章を書く時に、何か参考になれば」と思って手に取った本ですが、その何階層も深いところにある「鉱脈」を見つけられた一冊となりました。

 

全体的にしゃべり口調であることと、内田樹さん自体が非常に説明のうまい方であるため、高度な内容ながらとても読みやすく、お勧めの一冊です!